生きることを諦めないこと

本当の言葉を書きます

答える体力ない病めるアメリカ。

 11月の米大統領選に向けた候補者選びで、共和党の不動産王ドナルド・トランプ氏が民主党ヒラリー・クリントン国務長官とともに、また一歩ゴールに近づいた。変革に対する期待と極論への反感――。この異端児の是非を巡り、米国の世論は真っ二つに割れているが、もはや軽視できない民意がそこにある。


オハイオ州でトランプ氏の看板を手に持つ支持者=ロイター
 トランプ旋風は「病める米国」の様々な症状を映し出す。第1の問題は経済格差の拡大だ。
 米連邦準備理事会(FRB)によると、米国では上位5%の高所得層が富の63%を握る。これに対して下位50%の低中所得層が抱える富は1%にすぎない。グローバル化や市場化の荒波にもまれ、リーマン・ショックの後遺症に苦しむ庶民が「偉大な米国の復活」という公約に飛びついた。

 米ギャラップ社の調査では、大統領として経済課題に最もうまく対処できるのはトランプ氏と答えた保守層が6割強に達した。成功を収めた実業家に米経済の再生を委ねたい。そんな支持者が低中所得層の白人男性を超えて広がっている。


 第2の問題は人種間のあつれきである。米国の全人口に占める白人の割合は1965年の84%から、2015年には62%に低下。65年には46%まで落ち込むという。存在感を増す非白人にいら立つ一部の白人が、移民や難民の排斥を唱えるトランプ氏に共鳴する。
 第3の問題は政治の機能不全だ。共和党の中でも保守色の強かったブッシュ前大統領と、民主党の中でもリベラル色の濃いオバマ大統領。両氏の時代に党派の対立が深まり、重要政策の多くが滞った。既存の政治家は特定の企業や団体、個人の大口献金者に縛られ、庶民の声が届かない。

 主流派に政権を託しても、同じことの繰り返しだ。ならばしがらみの少ない反主流派に頼った方がいい――。不毛な政治に憤り、真の変革を渇望する人たちを、トランプ氏が引き寄せる。

 だが経済政策や外交・安全保障政策の論戦は二の次で、人種や宗教に絡む差別発言だけが脚光を浴び、トランプ派と反トランプ派がいがみ合う現状は危うい。これが米国、そして世界の未来を託すのにふさわしい大統領選といえるだろうか。

 米国は様々な形で分断され、かつての包容力を失いつつある。米調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、ライバルの政党が極めて好ましくないとみる共和党員と民主党員は4割前後に上る。「同じ政治信条を持つ仲間と一緒の地域で暮らしたい」「自分の子供には、別の政党の人と結婚してほしくない」という声も増えてきた。

 こうした亀裂を修復し、超大国を再建する指導力が、次の大統領に問われているはずだ。今の異様な光景に世界が身構えるのも無理はない。

(ワシントン支局長

小竹洋之)