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AV出演強要、IPPAは「AV業界は重く受け止めるべき」とコメント シンポジウムに松本アナも出席 
小川たまか | ライター/プレスラボ取締役
2016年5月27日 0時13分配信

シンポジウムの様子。着席している女性の右から2人目が松本圭世氏
  
5月26日午後、参議院議員会館で「AV強要被害の被害根絶を目指して」をテーマとした院内シンポジウムが行われ、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(以下、HRN)の伊藤和子弁護士、人身取引被害者サポートセンターライトハウス代表の藤原志帆子氏らが出席した。

シンポジウムは、HRNが今年3月に発表した調査報告書「日本:強要されるアダルトビデオ撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害」への反響を受け、さらに理解を広げるとともに、今後の被害救済の方向性について議論を深めるために行われたもの。伊藤弁護士らのほか、消費者法の観点から中野和子弁護士、労働法の観点から田村優介弁護士が、AV撮影現場で行われている契約・制作過程での問題点と課題を説明した。

松本氏「同情してほしいわけではありません。他の被害者が声をあげやすくなるように」
シンポジウムには、フリーアナウンサーの松本圭世氏が急きょ登壇した。松本氏は2012年から2014年まで愛知県のテレビ局に勤務していたが、週刊誌に「AV出演疑惑」を報じられたことをきっかけにすべての出演番組を降板して辞職。「出演した」とされた映像は、学生時代に「バラエティー番組の収録」とだまされて飴をなめている姿を撮影されたもので、映像は無断でアダルトビデオの冒頭部分に使われた。松本氏は自身の経験を語る前に、こう話した。

「今日ここでお話することで、同情してほしいとか、被害者アピールをしたいとか、そういうことではありません。当時のことを話すことで、AV強要問題が社会問題として取り上げられたり、他の被害者が声をあげやすくなること。そういう状況になってほしいと思っています」

松本氏が、自身の映像がアダルトビデオに使われていることを知ったのは報道が起こってからだったという。しかし、使われた映像について心当たりはあった。

「騒動となる4,5年前、大学生だった頃に街中で男性から『困っているから助けてください』と声をかけられました。バラエティーのようなものを撮影していて、誰も助けてくれないから少しでいいから協力してほしいと。『男性の悩みを聞いてくれるだけでいい』という内容でした。ずっと断りましたが何度も説得され、それだけ困っているのだったらと、半ば人助けのような気持ちで出ることを了承しました」(松本氏)

その後、案内された小さな車の中には女性スタッフが1人いて、「お化粧直しをしましょう」と言われた。メイクをされ、「その時点で、断りにくい雰囲気になってしまった」という。また、女性がいたことで警戒感が薄れる気持ちもあった。

男性が4,5人いて、逃げるのは難しかった
「しばらくすると、承諾書のようなものを差し出されました。読んだけれども、AVを連想させるような言葉はもちろんなく、撮影協力ということでした。怪しいと思わずに承諾書を渡してしまいました。承諾書の控えはもらっていません。今だったら控えをもらわないのはおかしいと思うけれど、当時は大学生で社会経験がなくてわかっていなかった。そういうものだと思ってしまいました」(松本氏)

承諾書を提出した後、別の大きな車に案内された。最初は説明された通り男性の話を聞いているだけだったが、撮影が進むとおかしな雰囲気になったという。そして突然、飴が出された。

「そのときにようやく、おかしいのかな?と。でも車の中には男性スタッフが4、5人いて女性は私一人。皆さん、逃げれば良かったじゃんって思うと思うんですけれど、でもやっぱり(断って逃げるのは)難しかったです。撮影のあとで『使わないで』とお願いすれば大丈夫なのではないかと、そのときは思ってしまいました」(松本氏)

撮影後、実際に男性スタッフにそうお願いした際、そのスタッフからは「大丈夫、大丈夫」と返答があり、それっきりだった。結局映像はアダルトビデオの冒頭部分に使われて発売された。

知らないことが多すぎたからこそ、被害を伝えたい
「(報道が出てから)出演していた番組のすべてを降板し、1年以上アナウンサーとしての仕事はできなくなりました。ごはんものどを通らず、毎日泣いて過ごしました。今となっては笑って話せることもあります。でも当時は世間からの声も本当に厳しくて、自殺も考えました。

私に落ち度があったのではないかと思われる方もいると思います。落ち度がゼロだったとは言いません。(現実で起こっていることについて)知らないことが多すぎて、そういうだまし討ちのように撮影が行われていることや、契約書の控えをもらわなければいけないこと、撮影の後に『使わないでください』と言って『大丈夫』と言われてもそうではないということ、(そういう被害に遭った際に)誰に相談すればいいかもわかりませんでした。

わからなかったから、忘れたころに騒がれることになってしまいました。だから、皆さんの前でこうして話すことで、被害に遭う人が少なくなることにつながればと思っています」(松本氏)

また、松本氏は、被害に遭った人に対しての偏見についても語った。

「だまされるほうが悪いというのは違う」
「こうやって人前で話せるようになるまでは時間がかかりました。偏見、だまされる女性が悪いという風潮があります。だから表に出るのが怖かったです。でも、もし皆さんのご両親がオレオレ詐欺で何千万円も取られてしまったら。だまされた親が悪いと皆さんは思うのでしょうか? 脇のあまさは私もあったと思うけれど、単にだまされるほうが悪いというのは、それは違います。被害者が声をあげやすい、世間が被害者の声を聞く、そうなっていうように祈っております」(松本氏)

松本氏の前に、AV出演強要被害に遭った出演者が実際に自身の体験を語った15分間ほどの映像が流れた。匿名で顔を隠し、音声も変更しての出演映像だった。その中で出演者は、「社会に対して言いたいこと」を聞かれ、こう語った。

「おそらく皆さんは、私たちみたいな女のほうを見て、いやだったら辞めればいいじゃん、辞めなかったほうが悪い、ひっかかるほうが悪い。そう思うと思うんです、当然。私も何度も、そういう意見を受けてきた。でも本当に、自分の意と反することで、どうしてもそういった状況に陥ってしまう人がいるということを知ってほしい」(出演被害に遭った匿名女性)

被害者の落ち度を問うことは、加害者の利につながる
被害に遭ったことがない人は、実際の現場で何が行われているのかを知らないままに、「だまされるほうも悪いのでは?」と推測してしまう。彼女たちも決して「自分に落ち度がなかった」とは言わない。むしろ、「自分が悪い」と強く自責している。そして、そういった自責の念が、「だます側」への告発を躊躇させる。

AV出演強要に限らず、性犯罪被害者は強い自責感に襲われることが多い。「自分にも落ち度があった」と思うから警察に通報できず、誰にも相談できない人がいる。そして結果的に、犯罪者を野放しにしてしまうことにつながる。「被害者にも落ち度があったのでは」という風潮は、加害者の利にやすやすとつながってしまうのだ。性犯罪についての報道があるたびにネット上では被害者の落ち度を問うコメントが書き込まれるが、「被害者の落ち度を問うことは、加害者の利につながる」という構造を、私たちはまず知っておくべきだろう。

また、シンポジウムの冒頭で出演者が語る映像が流されたことや、松本氏が自らの経験を語ったことは、被害者が姿を出しづらいこういった性的な被害報道において持ち上がる、「本当に被害者はいるのか」という疑問に、ある程度答えるものだっただろう。被害者が実際に語りづらいこと、被害者の姿が見えづらいことで、伝わらない被害内容がある。これも性犯罪被害の難しい問題点のひとつだ。

「AV業界全体を撲滅したいわけではない」
また一方で松本氏はシンポジウムの最後に、「これは私の考えですが」と前置きしたうえで「AV業界のすべてを否定したいという立場ではない」と語った。

「友達の中には、前向きな気持ちでAVの活動をしている人もいます。ただ、(AV強要の)被害があるというのは、間違いようのない事実。AV業界全部をなくしたいというわけではなく、被害については救っていかなければ。長い道のりになるかもしれないけれど、頑張っていきたい」

HRNの伊藤氏も「松本さんと同意見」と発言。「業界を撲滅したいと考えているわけではない。被害がどれだけ多いかわからないけれど、深刻な被害を受けている人たちが私たちの周りにもいるかもしれない。被害に遭った人が悩みを抱えたまま救済手段がない現在の状況を変えていければ」と続けた。

AV強要問題における訴えに関しては、一部の業界関係者から反発もある。反発の中には、「業界内の全てで強要が行われているわけではない」「ごく一部で行われていることを過大に訴え、業界全体に悪いイメージをつけようとしているのではないか」といった意見もある。しかし、調査報告書の中には「真に自由な意思でAVに出演するケースもあると考えられるが、本調査はあくまで、AV出演の課程で発生している人権心外事例に着目し、その解決について提言をしようとするものである」という一文があり、伊藤氏が今回明言した通り、業界全体の撲滅を意図する活動ではないはずだ。どちらにとっても誤解のないように意見交換を行い、HRNと業界側が協力することが被害者の救済につながり、ひいては業界の健全化につながるはずだ。

IPPA「AV業界は重く受け止めるべきであり、改善の必要がある」
HRNは今回、「AV業界を横断的に網羅する団体」として、NPO法人知的財産振興協会(IPPA)を招待したが、IPPAは「スケジュールが調整できない」ことから、出席しなかった。代わりに前日に書面の通達があったといい、この書面の中でIPPAはHRNに対し「意見交換などの協力」を求めた。下記がシンポジウムで読み上げられた書面の内容を要約したもの。

「前略、私共はNPO法人知的財産振興協会と申します。(略)

成人向けの実写・アニメ・ゲームなどの制作会社、メーカーが会員となり、関連する約240社の作品の著作権保護、自主規制の基準統一推進、業界活性化を目指してのイベント主催などに取り組んでいる協会団体です。当然ではございますが、海外サーバーを利用して無修正AVの制作、配信を行う制作会社、メーカーは弊会員にはおりません。

アダルトビデオの制作会社、メーカーが中心の団体となりますので、出演女優の方が登録されておりますプロダクション、作品を取り扱われている流通販売など、AV作品に携わる全体を網羅しているわけではありませんが、制作会社の団体としての立場より、現在の考えを中心にお伝えさせていただきます。

御団体が、平成28年3月3日に発表された報告書は、発表と同時に弊協会でも精読させていただいております。この中で報告されている被害の実例は目を疑うものであり、被害を受けたご本人様、関係者様の心痛は察するに余りあるものです。

この報告書につきましては、業界関係者を始め、様々な方々がご意見を発信されておりますが、弊団体としましては、被害に遭われた方々が実際に存在しているということに関してはAV業界は重く受け止めるべきであり、改善の必要がある、と感じており、制作会社の団体として何ができるのか、何に取り組むべきかの検討を進めておりました。

現在、その検討を進める過程で、御団体のご協力をお願いできないかと考えております。
御団体は、AV業界内の私共では見えない側面が見えておられると存じます。内外両方から見えるもの、知っていることを合わせ調整することにより、今回のようなAV被害をなくしていくシステムを整備し、AV業界の健全化を一歩進められるのではないかと思います。

御団体におかれましては、弊協会との意見交換などの協力をお願いできれば幸いでございます。以上、簡単ではございますが、弊協会の考えをお伝えさせていただきます」

IPPAがシンポジウムに欠席したことを否定的にとらえる向きもあるかもしれないが、それでも文書でHRNと協力する姿勢を伝えたことを一歩前進ととらえることはできないだろうか。今後の行方を見守りたい。

ライトハウスへは、2013年から2016年4月末までに120件のAV出演に関する被害相談が寄せられ、そのうちの1割弱は男性。また、被害が報道されるようになってから相談は増え続けているという。


小川たまか
ライター/プレスラボ取締役
1980年・東京都品川区生まれ。立教大学院文学研究科で江戸文学を研究中にライター活動を開始。 フリーランスとして活動後、2008年から下北沢の編集プロダクション・プレスラボ取締役。教育問題・企業取材・江戸文化など。バナーの画像は下北沢駅前食品市場の屋根です。奥に見える小田急線地上ホームは2013年3月末に営業を終了しました。
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