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都心格差

 東京都港区の住民の所得は1100万円超――。総務省の2016年度の統計からこんな結果が分かった。港区は多くの富裕層が住み、2位の千代田区民より200万円近く所得が多い。港区は23区で最下位の足立区とは約780万円、3倍以上もの開きがあり、"区間格差"は年々拡大する傾向にある。東京など大都市と地方の格差は指摘されることが多いが、大都市内での格差も無視できない。

品川駅南側の高層マンション(東京都港区)
■高所得トップ3は港、千代田、渋谷

 総務省が3月末に公表した16年度の「市町村税課税状況等の調(しらべ)」のデータをもとに、納税義務を持つ住民1人当たりの課税対象所得を算出した。首位は港区(1111万円)で、2位は千代田区(915万円)、3位は渋谷区(772万円)、4位は中央区(617万円)、5位は文京区(587万円)などと続いた。最下位は足立区(335万円)で、次に葛飾区(342万円)が低い。23区の平均は約500万円だった。

 総務省の統計には給与収入だけでなく、株式の売却益や配当収入なども含まれている。港区民は会社などからの給与と金融資産の両輪でたくさんの所得を生み出している。一方、下位の区民は金融資産が比較的乏しく、所得の多くを給与に頼っている傾向がある。総務省の所得データは税引き前のものであり、実際の手取り収入はもっと低くなる。

アベノミクスの恩恵、港区などに集中

 16年度と15年度を比較すると、最も増えたのは港区の9%増だった。千代田区(8%増)や渋谷区(5%増)も収入を増やしており、上位の裕福な区民がさらに裕福になっている構図がある。それに対し、足立区を筆頭に所得が低い区の増加率は0~1%程度にとどまる。

 5年前の11年度に比べて港区の所得は27%も増えているが、足立区は4%増にとどまる。アベノミクスによる株高の恩恵もあり上位の区が所得を着実に増やす一方で、賃金上昇の勢いが弱いため下位の区の伸び率は限定的となっている。

■背景にはブランド力の差も

 「六本木ヒルズなどがある港区はブランド力で富裕層を引き寄せている」。一般社団法人の東京23区研究所所長で、「23区格差」(中央公論新社)などの著書がある池田利道氏はこう指摘する。豊かになった人がブランド力などに引かれて港区に移り住み、区民の所得がますます膨らんでいく。港区にはそんな好循環が生まれている。

 反対に下位の区は所得の低い人が集中する傾向があるようだ。ニッセイ基礎研究所の竹内一雅氏の調査では、足立区は年収300万円未満の世帯が42%おり、23区内で最も比率が高かった。「家賃など生活コストが低いため低所得者層が集まりやすい」(竹内氏)。相対的に収入が少ない高齢者層の比率の高さも背景にあるとみられる。

 米国のトランプ大統領誕生や、フランスなど欧州の極右政党の躍進には格差への不満も背景にあった。日本全体の中で見れば足立区は特に貧しいわけではないが、上位の区との格差は開いている。7月には都議選が控える。東京ではそれほど目立った議論にはなっていないが、投票行動にどう影響するか見てみるのも面白いかもしれない。

栗原健太