生きることを諦めないこと

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働く爺ばかりな国

 総務省が29日公表した2015年国勢調査の抽出速報集計で、就業者全体に占める女性と65歳以上の高齢者の割合が初めて5割を超えたことが分かった。少子高齢化のあおりで労働力人口は6075万人と前回の10年調査と比べ295万人減少し、6千万人割れが目前に迫る。増加する介護・福祉分野などの人手不足を補うため女性とシニア層が働き手として存在感を高めている。

 国勢調査は5年に1度実施し、今回は全世帯の1%に当たる約50万世帯を抜き出して推計した。働く女性とシニア層を合計すると、全就業者に占める割合は5年前の48.9%から51.7%に上昇し初めて半数を超えた。

 就業者の男性割合が高い60代が退職期を迎え男性全体の就業者が減ったことに加え、人手が必要な業種が製造業から介護などサービス産業に移りつつあることが要因だ。

 15歳以上人口に占める労働力人口の比率を示す労働力率でみると、男性は70.8%と3.0ポイント低下したのに対し、女性は49.8%と0.2ポイント上昇した。働いている人である就業者数で見ても、男性が10年比で4.3%減るなか、女性はほぼ横ばいだった。働く高齢者の増加も顕著で、65歳以上の就業者数は男女計で758万人と10年と比べ27%増えた。

 就業者の業種別割合が変化していることも女性やシニア層の雇用拡大に追い風だ。製造業は15.7%と10年比0.4ポイント低下する一方、医療・福祉が12.2%で2.0ポイント上昇した。高齢化で介護サービスを利用する人が増え、福祉の現場では人手不足が目立つ。卸売・小売業も16.5%で0.1ポイント上昇した。

 女性の就労が拡大する一方、残る課題は子育てと仕事の両立だ。女性の労働力率を年代別にみると25~29歳の80.9%をピークに、30代は72.4%まで低下。結婚や出産を機に退職してしまうためだ。育児後に復職して労働力率は再び上昇し、40~44歳は75.7%、45~49歳は78.0%まで上昇する。この「M字カーブ」を解消できれば日本経済の下支えにつながる可能性がある。

 男女間で雇用形態の違いも依然大きい。男性の雇用者のうち非正規の割合は18%だが、女性は54%と半数を超えた。非正規の割合は25~29歳では3割程度だが、40~44歳で5割を超える。

 日本の潜在成長率は0%台で推移している。労働力の減少が成長率を底上げするうえでの障害になっている。結婚や出産をしても働きたい人が働き続けられるようになれば、労働力を補えるようになる。

 慶応大の樋口美雄教授は「労働力人口を補う女性やシニアの活用が進んできた。より加速させるには短時間の勤務でも能力をきちんと発揮できるような働き方改革を企業が進める必要がある。正社員との処遇の差の改善も不可欠だ」と指摘する。

 安倍政権は「一億総活躍社会」を掲げ女性やシニア層の活躍の場を広げようとしているが、働き方改革は道半ばだ。自民党民進党などは7月10日投開票の参院選の公約で、正社員と非正規の賃金差を縮小する同一労働同一賃金などを明記した。非正規雇用の待遇改善や長時間労働の是正などの課題も残っている。