生きることを諦めないこと

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何か肝心な部分が間違った気がする特効薬

 小野薬品工業の先行きが晴れない。2016年4~9月期の連結純利益は前年同期比95%増の231億円と過去最高を更新したと7日に発表したが、けん引役であるがん免疫薬「オプジーボ」販売に数々の壁が立ちはだかっている。悩ましいのは薬価引き下げ問題だけではないのだ。

 「オプジーボの薬価はどうなるのか」。相良暁社長は決算説明会でこう問われ「当事者なのでコメントできない」と硬い表情で答えるしかなかった。4~9月期の純利益が期初予想を16億円上回ったのに、17年3月期の純利益を前期比2.2倍の558億円と予想を据え置いた理由も「プラスとマイナス要因があり、予測できない」。

 オプジーボはがん細胞が持つ特殊な免疫抑制機能を解除し、がんへの攻撃力を高める画期的新薬だ。日本で皮膚がんの一種、悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として14年7月に承認され、肺がんの8割を占める非小細胞肺がん、腎細胞がんの治療でも順次認められた。今後も対象拡大が見込まれている。

 悩ましいのは100ミリグラムで73万円という高額薬価への批判だ。体重60キログラムであれば年3千万円程度かかる計算だ。これが財政を圧迫するとの主張を受け、18年4月の薬価改定を待たずにオプジーボを25~50%程度引き下げるべきだとの議論が出ている。

 厚生労働省は月内にも方針を示す見通しだが、小野薬品の業績への影響は避けられない。オプジーボは世界に先駆けて日本で承認した通称「ピカ新」。薬価はこの点が考慮され、厚労省も納得済みだった。小野薬品にとってははしごを外された格好で、収益計画は大きく狂う。

 壁はまだある。予想外の重篤な副作用報告が相次いでいる。これまでの臨床試験や通常の抗がん剤使用で確認されていない重症の糖尿病や「重症筋無力症」などの副作用が発生。個人輸入で本来認められていない診療所が使い、死者が出た例もある。小野薬品には防ぎにくかったわけだが、ネガティブ情報は投資家に嫌気され、株価の下げ要因になる。

 最大の壁は競合薬の出現だ。オプジーボと同様の仕組みを持つ米メルクのがん免疫薬「キイトルーダ」が9月に承認。年末までに薬価が決まり、発売される可能性がある。

 オプジーボの優位性が崩れかねない理由は今年発表された臨床試験の結果だ。従来の抗がん剤治療を経ずに肺がんに最初から使うための臨床試験で失敗。キイトルーダは同様の試験に成功した。ある私立大医学部の教授は「キイトルーダを優先する医師もいるだろう」と指摘する。

 小野薬品は有力な新薬候補が少なく、オプジーボの「一本足打法」。今後はオプジーボだけに頼らず、企業買収などで新たな成長の種を仕込む必要があるかもしれない。

(高田倫志、野村和博)