生きることを諦めないこと

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切り捨てか

 経営再建中のシャープが台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業による買収提案の検討に入ることで、官民ファンド産業革新機構が描いた国内企業の再編構想が急速にしぼんでいる。液晶パネル事業の統合を目指したジャパンディスプレイ(JDI)は単独での成長を目指す見通し。白物家電の売却を模索する東芝など国内の電機大手はシャープ抜きでの事業再編にカジを切り始めた。


 経済産業省が所管する革新機構はシャープの液晶をJDI、白物家電とPOS(販売時点情報管理)を東芝太陽電池昭和シェル石油とそれぞれ事業統合する青写真を描いていた。鴻海を軸に再建に向け交渉を始めたことで、シャープの事業を解体して国内大手と再編する構想は白紙に戻る可能性が高まった。
 統合への準備が最も進んでいたJDIは比較的冷静だ。昨年12月にシャープの液晶事業の買収チームを立ち上げたが、社内の一部には当初から慎重な声もあった。シャープが持つ生産設備が過剰と映るからだ。

 日立製作所東芝ソニーの液晶事業を統合したJDIは母体企業の工場を引き継ぐ形で国内に5工場を持つ。シャープも亀山工場(三重県亀山市)を筆頭に、鴻海と共同運営する堺工場(堺市)など5工場。統合すれば「工場の統廃合は避けられない」というのが革新機構とJDI、そしてシャープの共通認識だった。

 JDIは独占禁止法の審査も危惧した。約2年間の審査中は設備増強などの経営判断が遅れてしまう上、各国の独禁法当局が審査を遅らせるリスクもある。「技術の潮流が目まぐるしく変化する液晶産業で2年間は痛手」(幹部)とみた。次世代パネルとして期待される有機EL開発への影響を懸念する声もあった。

 それでも統合しようとした狙いは売上高の8割を占めるスマートフォン向けパネルへの過度な依存を解消するため。パソコンやタブレット端末、車載向けに強いシャープの液晶事業を取り込めば販路が分散できると読んだ。シャープが鴻海傘下となった場合、JDIは車載や電子看板向けなど新事業に研究開発費を振り向けて単独での生き残りを模索することになりそうだ。

 一方、白物家電、POSシステムの統合構想が浮上した東芝。室町正志社長は4日の記者会見で「(シャープとの白物家電の)取引が成立しない場合は海外メーカーへの売却も選択肢だ」と述べた。白物家電は別の売却先を模索しており「2月末までに何らかの方向性を示したい」(室町社長)。事業構造の抜本改革を目指す東芝は医療機器子会社やメモリーを除く多くの半導体事業を見直す手続きも進めている。