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聖域でない原子力

 中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)で、津波を防ぐための防潮壁が月内に完成する。東日本大震災東京電力福島第1原発の事故から5年。今年5月には浜岡原発の停止からも5年が経過する。国の新規制基準に基づき、中部電が震災後に進めてきた安全対策工事が大詰めを迎える。

 浜岡原発の敷地前面。遠州灘を臨む境界に、長さ1.6キロメートルに及ぶ巨大な壁が威容を誇る。

 高さは海抜22メートル。土地が海抜6~8メートルのため、実際の高さは14~16メートルとなる。

 「福島の事故を教訓に、2度と同様の事故を起こさない堅い決意で取り組む」。勝野哲社長は安全対策についてこう力を込める。その象徴というべき存在が防潮壁だ。

 浜岡の安全投資は3000億円台後半に上る。中部電は内訳を開示していないが、主要な費用を防潮壁が占めている。

 壁の工事そのものは、昨年12月26日、壁の強度を高める地盤改良を終えたことによって完了している。現在は、壁の両端からの浸水を防ぐための「盛り土」をかさ上げする工程が最終段階だ。現場では作業員らが、セメントと砂を混ぜた盛り土にモルタルを吹きつける作業を進めている。

 浜岡原発の安全対策には曲折があった。浜岡原発東海地震の想定震源域に位置し、2011年5月に菅直人首相(当時)の要請で全面停止した。

 中部電は11年7月に防潮壁設置を決定。当初は高さが海抜18メートルの予定だった。だが、内閣府による南海トラフ巨大地震の想定結果を反映し、海抜22メートルにかさ上げすることに計画を変更。その後、新規制基準への対応のため、安全対策全体の工期を延長した経緯もある。

 中部電は目下、防潮壁以外にも火災対策などを進めており、4号機については9月末までに安全対策を終える予定だ。

 対策の進捗を踏まえ、今後は再稼働をみすえた地元自治体などとの協議も本格化しそうだ。

 中部電が安全協定を結ぶ静岡県と周辺4市(御前崎、牧之原、掛川、菊川)のほか、4市のさらに周辺にある7市町への対応なども課題となる。

 一方、大津地裁が今月9日、関西電力の高浜原発3、4号機の運転差し止めを決めたことも、今後の焦点となりそうだ。電力各社が司法判断を受けて安全対策の見直しを迫られる可能性もある。

 防潮壁の完成により、中部電の安全対策は大きな山を越えるが、再稼働に向けた動きは依然予断を許さない情勢だ。

(中川渉)